ディラン氏なお沈黙 ノーベル賞関係者に戸惑い
【ロンドン=共同】歌手で初のノーベル文学賞授与が発表された米シンガー・ソングライター、ボブ・ディラン氏が沈黙を続けている。12月の授賞式に出席するのか、そもそも受賞する気があるのかさえ不明で、関係者は戸惑っている。
「授賞式に来るという直感がある」。17日、選考主体スウェーデン・アカデミーのダニウス事務局長は地元ラジオの番組でこう述べ、「この直感は間違っているかもしれないが」と付け加えた。
ダニウス氏は電話やメールでディラン氏への連絡を再三試みたが、13日の授与発表後、接触できたのはレコード会社の関係者ら止まり。アカデミー関係者は「発表日に連絡できなかった例はあるが、これほど長く連絡できなかったことはほとんどない」と話す。
授賞式はノーベルの命日に当たる12月10日にストックホルムで行われる。無反応のディラン氏が姿を現すかどうかに世界の関心が集まっている。
受賞者不在で式が行われた例は珍しくない。健康上の理由で欠席したのは2005年受賞の英劇作家、ハロルド・ピンター氏や07年の英作家、ドリス・レッシング氏らで、式に先立つ記念講演も録画や代読で対応した。
04年のオーストリアの作家、エルフリーデ・イェリネク氏は「人前に出るのが苦手」だとして欠席。後日、ウィーンのスウェーデン大使公邸でひっそりと式が執り行われたと伝えられた。村上春樹氏も作品を翻訳したことがある13年のカナダの女性短編作家、アリス・マンロー氏も体調不良のため欠席した。
仮にディラン氏が式に出なくても何らかの授賞式は催される見通し。問題は本人が授与を受け入れるかどうか。過去に文学賞を辞退したのはソ連の詩人、パステルナーク氏(58年)とフランスの作家・哲学者、サルトル氏(64年)。パステルナーク氏はソ連当局の圧力で辞退した。ディラン氏が辞退すればサルトル氏に続く2人目の自発的な辞退者となる。
ディラン氏は授与決定後もコンサートには出演しているが、賞への言及はない。ただ、「孤高の表現者」は表彰を素直に喜ぶ人柄でないことも知られている。米紙ロサンゼルス・タイムズはディラン氏の沈黙に「長年のファンは誰も驚かないだろう」と指摘している。