アマゾンFire Phoneレヴュー:初のスマートフォンだから、ね。

  • author 福田ミホ
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アマゾンFire Phoneレヴュー:初のスマートフォンだから、ね。

ガマンすれば使える、けど、そこまでの理由もない。

アマゾンからついに独自スマートフォン「Fire Phone」が発表され、米Gizmodoでじっくりレヴューしています。Kindle Fireのように安価な端末になるかと思いきやプレミアム路線という意外な展開でしたが、実際そんなプレミアムに見合うものになってるんでしょうか? 以下どうぞ。

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アマゾン初のスマートフォンはユニークだし楽しいし、ちゃんと使えるスマートフォンです。でも、もっとやりようはあります。

Fire Phoneって何?

アマゾンが手がける初めてのスマートフォンで、AndroidをヘヴィーにカスタマイズしたFire OSを搭載するスマートフォンとしても初の試み。4.7インチのHDスクリーンにSnapdragon 800、32GBのストレージを搭載しています。契約条件付きで200ドル(約2万円)ですが、ここには期間限定でAmazon Prime1年分(99ドル≒約1万円相当)が付いてきます。ユーザーの顔のトラッキングなど、ちょっとした芸もできます。

そして何といっても、世界最大のアマゾンというお店をポケットサイズに詰め込んだ端末です。

どこがすごいの?

アマゾンの電子書籍リーダーは無類の存在であり、彼らのタブレットは驚くほど練られたデヴァイスです。だからFire Phoneはテック界の巨人による、満を持してのスマートフォン市場参入ということになります。が、同時にアマゾンのハードウェア哲学が試される機会ともなっています。

アマゾンのデヴァイスといえば最初はチープなのがウリでしたが、良いハードウェアを作るにはコストがかかります。Kindle Fire HDXシリーズによって、アマゾンにはハイクオリティでちょっと高めなデヴァイスも作れることが示されました。Fire Phoneにはそんな変化が集約されています。それは価格的には安くなく、完全にプレミアム価格です。アマゾンがプレミアム層で戦えるかが今問われていて、アマゾンにとっては大きなステップとなります。

で、Fire Phone自体に何かすごいところがあるかといえば、カメラです。スマートフォンにカメラが6台も載っていたことなんて、いまだかつてありません。6台です!

デザイン

良いスマートフォンはたいていそうですが、Fire Phoneは魅力的な直方体のプリズムです。角がやや丸みを帯びた形状は大きめのiPhoneのように見え、楕円形のホームボタンはサムスンを思わせます。

重量がややずっしりしています。160gなので185gのLumia 920ほどではありませんが、112gのiPhone 5sとか130gのNexus 5、145gのGalaxy S5と比べると明らかに重いです。でも、ジーンズが重くなるほどではありません。

Fire Phoneの丸みを帯びた側面はゴム引きになってグリップ感をプラスしているんですが、背面がガラスなのでテーブルなんかでは滑りやすいです。Kindle Fire HDXは背面にちょっと変わったエルゴノミックな角度が付いた形だったので、それと比べると特徴がなくて残念です。

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ボタンはしっかりしていて、Nexus 5みたいにチープじゃありません。専用のカメラボタン(長押しでFireflyボタン)があるのは楽しいですが、間違ってカメラを立ち上げて電車の中で赤の他人を撮ってしまうことが多々ありました。

Fire Phoneのもっとも特徴的な機能は、前面にちりばめられた5つのカメラで実現されています。ひとつは自撮り用カメラ、他の4つは顔をトラッキングして3Dの技を繰り出すための仕掛けです。4.7インチ・720×1280のIPSディスプレイの視野角は広く、端末を傾けていても見やすいです。サイズに関しては僕の大きめの手にはかなりツボです。4.7インチの大きさは、画面上部も親指で無理せずタッチできる上限ぴったりです。

総合すると、Fire Phoneは多少退屈かもしれないけれど、見た目は問題ないです。ただ米Gizmodo内にはこの意見に反対する人もいて、少なくとも何人かは絶対ダサいって言ってます。

使ってみてどう?

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・Fire OS 3.5

まずFire Phoneは、夢のように良い出来とまでは言わないにしろ、本質的にちゃんと使えるスマートフォンです。Androidの原型をとどめないほどカスタマイズされたFire OSも、人間でいえば思春期を過ぎる頃です。

が、Fire OS 3.5を使っていると、やっぱり元々タブレット向けに作られたOSだなーと感じることがよくありました。タブレットでぼーっとアプリとか映画とか本をスワイプしていくのと、地下鉄に乗りこむ前に次の行動を一瞬確認するのとでは違っていて、Fire OSは前者に軸足があるんです。

たとえばメインのインターフェースは巨大なアイコンがクルクル回る見せ方で、もっと大きな、ヨコ方向のスクリーンに適しています。幸い重要なアプリはその前にピンどめできるようになって、各アイコンの下には中のデータをチラ見できるウィジェットもあります。ホームスクリーンで最新のメール2通をチラ見できるのはすごく便利ですが、その便利さはどのアプリでも実感できるわけではありません。たとえばこんな風に。

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便利なもの(左)とそうじゃないもの(右)。

でも幸い、操作手段はアイコンのホイールだけじゃありません。手首をクッとフリックすると(それは10回に4回くらい認識される程度ですが)、端末内にあるいろんなタイプのものをすべてカテゴライズした効率的なメニューを呼び出せます。アプリ、ゲーム、Web、音楽、動画、本、などなどという感じです。そちらのほうがずっと便利ではあるんですが、上に書いたとおりジェスチャーコントロールがあてにならないので、大体はもっとおなじみの方法、上スワイプでアプリドロワーを開いてました。Fire OSには独自の操作があるんですが、どれも基本的な操作より使いやすくないものでした。

おまけ機能は、最終的に使わないままになったとしても別にかまいません。でもFire OS 3.5には、iOSにもAndroidにもWindows Phone 8.1にもあるごく標準的な機能が抜けています。たとえばFire OSの音声アシスタントはSiriにもGoogle NowにもCortanaにも遅れをとっています。アプリを開くように言うと、謝罪とともに、できるわずかなことのリストを出してくるんです。それは、電話をかけること、テキストメッセージを送ること、メールを送ること、そしてWeb検索、それだけです。近くのガソリンスタンドへの道を聞くと、Yelpのモバイルサイトで「ガソリンスタンド」を検索した結果が返ってきます。この点はかなり改善の余地があります。幸い、以前のハンズオンで気づいたそれ以外の抜けてる機能、たとえば乗り換え案内とかタスクスイッチャーとかは追加されてました。

ただFire OSに欠けていて当分追加されないのは、一連のGoogle系アプリです。この点はスマートフォンのほうがタブレットよりはるかに痛手です。Kindle Fireは全体的にサイド端末ですが、Fire Phoneはメイン端末だからです。

とはいえ、Google系アプリがないからといってFire Phone全体が全然使えないとは思いませんでした。たとえばノキアの地図アプリHereがあるからナビゲーションもできるし、アマゾンのブラウザSilkでWebサーフィンもできるし、メールとかメッセージアプリもネイティヴのものがあります。ただGoogle系アプリが使えないちょっとした不便さは積もり積もっていきます。

中でも一番痛いのはGmail公式アプリが使えないことです。Fire PhoneデフォルトのメールアプリでもGmailは使えますが、そうするとまともなメールとスパム的メールが一緒くたになってしまいます。Gmail公式アプリでは別タブに入っているから気にもかけなかったプロモーションメールとかSNSの細かいアップデートとかが、いきなり市民権を得て前面に出てきます。僕はTwitterとかLinkedInのメール通知で本当にいっぱいいっぱいになったので、結局各サーヴィスの通知をオフにしなくちゃいけませんでした。

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でもFire PhoneではGoogleの他の機能に極力近いものをそろえてはいます。たとえばホームスクリーン右側から引き出せるメニューがあり、Google Nowっぽく天気とかカレンダーのイヴェントの情報を表示できます。その機能はFire OS全体の縮図で、競合ほどうまくはできてないけど、それなりに良いものになっています。

・Dynamic Perspective

Dynamic PerspectiveはFire Phoneの堂々たるキラー機能です。4つの前面赤外線カメラと赤外線LEDによって、顔を3軸(x、y、zの軸)で捉えます。そのデータに従ってディスプレイや頭を動かすことで、画面の中身も動きます。カメラは真っ暗な場所でも頭の動きを認識しています。

技術的にはすごいです! が、役には立ちません。

まずDynamic Perspectiveは、初めて見たらきっとすごいと思うはずですし、アマゾンもうまく見せています。Fire PhoneのロックスクリーンはデフォルトでこのDynamic Perspectiveが有効になったシーンが使われてて、時刻の数字もオブジェクトのひとつとして表示されます。たとえば「エジプトの遺跡」モードでは石でできているし、「フードファイト」モードではテーブルにこぼれた牛乳で描かれています。立体効果を極限まで使うことですべてが動く3Dオブジェクトになって、手とか頭の動きに反応してきます。

ただ、そんな顔トラッキング技術から何らかの便利機能がいつか生まれるかもしれませんが、今のFire Phoneにはそこまでのものがありません。Dynamic PerspectiveはFire Phoneのあらゆるところに詰め込まれているのですが、それは「最初の10回くらいまでは楽しい」場合もあれば、ただ邪魔なだけのものもあります。

Dynamic PerspectiveはFire OS 3.5のほとんどあらゆるところで使われています。クルクル回して選ぶアイコンはDynamic Perspectiveが有効な3Dオブジェクトなので、ユーザーの動きに反応します。ただしサードパーティアプリだと、2次元のアイコンが申し訳なさそうに回ることになりますが、これはドックの中のアイコンとか、アイコンドロワーの中のアイコンについても同じです。Fire Phoneのメインナビゲーションメニューのテキストとか、ダイヤラーの中の数字もそうです。

Dynamic Perspectiveは、それをサポートする一部のゲームではかなり使われています。たとえばPlanet Puzzlesでは、3Dのルービックキューブみたいなものを回したりできます。Monkey Buddyでは、スクリーンを十分傾けると隠れた「About」ページが見えて「お~」となります。

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ある傾け方をすると隠れた情報が見える、というのはDynamic Perspectiveの主要な使い方の1つです。ロックスクリーンとかゲームの右上・左上に隠されたイースターエッグを見つけられるだけじゃありません。それはFire OSの中にPeekなる機能として内蔵されています。考え方としては、端末をちょっと傾けたり、頭をちょっと横に動かしたりすると、さらなる情報が表示されるってことです。そう、通常よりちょっとだけ見づらい角度で端末を見ることで、見えないデータが見えてくるってことです。

この機能が一番アグレッシヴ(かつ邪魔っけ)に使われてるのは、時間とか電波強度、バッテリー残量を表示するステータスバーのところです。つまりそんな基本的なところが、普通に端末を見るだけじゃ見えないんです。設定で無効にもできますが、そもそもステータスバー部分には他の情報を表示しないスペースであることを考えると、なんでそこまでしなきゃいけないのか疑問になります。ステータスバーのことだけじゃなく、Peekがあることで思いがけず情報が見つかったりしたことは一度もありませんでした。

ただしその後アマゾンから補足があり、Yelpアプリでは地図上のピンの横に表示される小さなレヴューカードが常に出ていると地図が見えにくくなる、と言ってました。たしかにそのようです。

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左がPeekなし、右がPeekあり。

・Firefly

Fire Phoneのもうひとつのウリは、何でもスキャンしてアマゾンですぐ買えるアプリ、Fireflyです。専用のハードウェアボタンもあります。こちらは僕のデスク近くのいろんなモノを認識させたり、認識できなかったりしたときの動画です。認識した商品は画面下に表示されます。

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何でもかんでも認識できるわけじゃないのは想定内でしょう。たとえばパッケージなしのモノは基本的にダメなので、友だちが使ってる商品をこっそり認識させようとしても無理です。でもFireflyの目的はそこではありません。近所の酒屋さんに入って適当な食べものにFire Phoneをかざすと、15回中13回はきちんと認識しました。失敗した商品のひとつは前面に「2ドルオフ」のシールが貼られたポテトチップスで、それもフレーバーを間違っただけでブランドは合っていました。もうひとつは無名なブランドの紅茶で、その酒屋さん用に手詰めされたものでした。

お店でのヒット率の高さと、箱入りのガジェットやオモチャは認識してきたことを考え合わせると、Fireflyはリアルな買い物中「これ買いたいけど、アマゾンで買おう」という状況での利用を狙っているように見えます。ユーザにとっては衝動買いがはかどり、ローカルで小さなお店にとっては経営圧迫要因になりそうです。

Fireflyは物理的なものを認識するだけではありません。音楽や映画、TV番組をShazamみたいに認識します。僕の好きなバンドStreetlight Manifestoの曲から、Huluにあったドラマ「スキャンダル」まで、みんなしっかり認識していました。ただちょっとした制約は、認識すると(当然)アマゾンに飛ぶってことです。それだけじゃなく、映画情報はIMDBにリンクするし、バンドに関してはチケット購入のStubhubに飛んだり、IHeartRadioに飛んだりもできます。

でもそんな選択肢リストの上に、その曲を買わないかとオファーが表示されていたりします。Spotifyでは無料で聞いている曲、Huluでは無料で見ている番組を、です。ストリーミングでなく購入するという行為自体は別にあってもおかしくはないんですが、ユーザをどんどんアマゾンのエコシステムに引っ張っていこうとするあまり、ユーザーの損得勘定までは気にかけていないようにも見えます。

・カメラ

Fire Phoneの前面カメラにはあまり実用性がないかもしれませんが、背面の1,300万画素カメラは悪くありません。が、素晴らしくもないです。Android端末の中では中間的です。が、TwitterとかInstagram用の画像を撮るだけならまったく問題ないです。

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画質は悪くもないんですが、機能面は驚くほど少ないです。スローモーション動画もPhoto Sphereもなく、もっとカメラ重視のスマートフォンなら可能なRAW画像も撮れません。パノラマ撮影ができる程度です。でも「質より量」という人なら、Fire Phoneで撮った写真に関してはクラウドスペースが無料なのがうれしいです。

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好きなところ

Fireflyはやれることはちゃんとやります。完ぺきではありませんが、ちゃんとできています。アマゾンから衝動買いする必要があるかどうかはさておき、買いたいものがパッケージに入っているものなら、Fireflyはそれを買うのを助けてくれます。それに実用しないといっても、Fire Phoneを何かにかざして認識できるか試すのはゲームとして楽しいです。もしもっとマイナーなものも認識できるようになったらみんなにとってうれしいことです。テクノロジー万歳!って瞬間です。

Fire Phoneは付属のアクセサリも良いです。イヤフォンはiPhoneのEarPodとだいたい同じ形ですが、からまり防止の磁石を使った技はちゃんと機能しています。一見地味かもしれませんが、チープなイヤフォンのわりにはかなり機能的です。壊れるまで使いたくなりそうだし、それにも長い期間を要しそう。これは付属のイヤフォンのあるべき姿です。さらにUSB充電ケーブルも栄えある5フィート(約1.5m)あります。

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ほぼつねに4つものカメラを動かしているわりに、Fire Phoneのバッテリーはかなり長持ちです。アプリをガンガン使って、メールもチェックして、Webサーフィンもして、それでも翌早朝時点で残り20%ありました。これは、Kindle Fire HDXでもリーディングモードで17時間持つのと同じバッテリーセーヴ技術と同じものが使われているのでしょう。ただFireflyとかDynamic Perspective多用のゲームとかをした場合バッテリーの減りは激しくなります。今朝は通勤中にTo-Fu Furyをプレイしていたら、30分でバッテリー10%を使ってしまいました。

Dynamic Perspectiveはクールです。便利ではありませんし、すぐ古くなると思いますが、それでもクールです。飽きてきて他の人に渡すと、おお~とか、ああ~とか言うのがつねで、それでこの技術のすごさを毎回思い出していました。

好きじゃないところ

Fire OSは使えなくはないのですが、メインのモバイル端末で使うにはAndroidより明らかに見劣りするし、iOSやWindows Phone 8.1と比べても同様です。Googleのアプリがないのは大きなハンディキャップで、代わりとしてWindows Phoneにはマイクロソフトのサーヴィスがあるのを考えるとやっぱり心許ないです。

Dynamic Perspectiveはすごいんだけど、まだギミックの域を出ていません。ちゃんと機能してはいますが、だからってこのために4つもカメラを使っていたりするのは正当化できるほどではありません。いつかこの機能を使ったキラーアプリをどこかのデヴェロッパーが開発する可能性もありますが、今のところまだそれは存在していません。

Dynamic Perspective多用のゲームをしていたり、Fireflyを15秒とか30秒とか以上使っていると端末がすごく熱くなります。もちろん触れないくらい熱くはなりませんが、心配になるくらいの温かさです。

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買うべき?

買うべきじゃありません。絶対に。Fire Phoneの欠点は耐えられないほどじゃありませんが、そもそもそれに耐えなきゃいけない理由がありません。Fire OSも使えはするけどスマートフォンOSとしては不十分だし、その穴をハードウェアでカヴァーすることもできていません。

価格は契約条件付きで200ドル(約2万円)、アンロックしたものは650ドル(約6万5,000円)なので、iOSでもAndroidでもWindows Phone 8.1でもほとんどのフラッグシップ端末が買えます。Amazon Prime1年分(99ドル≒1万円)が付いてくることを計算に入れても、Moto Xか何かのほうがずっと良いです。

どこか別の宇宙では、安価なFire PhoneにFireflyがキラー機能として載って、アマゾン・ジャンキーのニーズを満たしているのかもしれません。でも今Fire Phoneはプレミアムクオリティのスマートフォンということになっていて、まあまあのソフトウェアにギミックがくっついた形です。そんなFire Phoneは、つねにポケットに入れたいものではありません。いつかすごいデヴェロッパーがその4つの前面カメラの真の使い道を編み出すかもしれませんが、それまでは違う端末を使っていたほうが良いでしょう。

Eric Limer - Gizmodo US[原文

(miho)