執事だけが知っている世界の大富豪58の習慣』(新井直之著、幻冬舎)の著者は、日本で唯一、総資産数十億〜数兆円レベルの大富豪を対象とした執事サービスを提供しているという日本バトラー&コンシェルジュ代表。映画『謎解きはディナーのあとで』『黒執事』において執事監修を行ない、北川景子、櫻井翔、水嶋ヒロへ所作指導も行なってきたという人物です。

本書では、そんな立場から実際に目で見てきた、大富豪たちの成功哲学を紹介しています。しかし内容を見てみると、一般的な大富豪のイメージを覆すような、ちょっと意外なエピソードも。きょうは第一章「世界の大富豪のビッグビジネスのつくり方」から、印象的なものをいくつか紹介しましょう。

"偉い人"には無関心

相手が社会的地位のある方だとわかったとたん、それまでとは打って変わって丁寧に接する人がいますが、大富豪は違うと著者は言います。相手がどんな人であろうと丁寧な態度を崩さないことが基本であり、それに加え、すでにお金持ちや経営者になっている「完成した偉い人」にはあまり関心を示さないということ。むしろ、まだ社会的に成功していない人、つまり"まだ偉くない人"を大切にするのだそうです。

地位の高い人を大切にするのは、株式市場にたとえれば、早期のリターンを期待して有望株に投資するようなもの。しかし大富豪は、もっと長期的でより大きなリターンが期待できる「成長株」を選んでいるということ。いわば、より確実性の高い先行投資を選ぶというわけです。(14ページより)

いつも見切り発車

大富豪は普段から環境変化に備え、「これはビジネスになる!」と決断したら電光石火のスピードで行動に移すもの。周囲の状況を見つつ、ゆるゆるはじめることはないそうです。だから、事業プランを立てるにしてもかたちだけで、たいていは見切り発車。「思い立ったら即実行」がモットーで、走りながら考えるタイプが圧倒的に多いと、著者は感じているとか。

もちろん「10年後は、これくらい会社を大きくしたい」という長期ビジョンは持っていますが、これだけ環境変化が激しい時代では、どれだけ綿密なプランを立てても実際にはそのとおりに進まないということをよく理解しているということ。そこで、まずは着手してみて、感触を確かめながら修正していくのです。(35ページより)

スケジュール帳は常に真っ白

いわゆるビジネス・オーナーの大富豪は、仕事の予定が意外なほど入っていないのだとか。だから、スケジュール帳を開くと真っ白。定例会議などの固定した予定が週に3、4件ある程度だといいます。それは大富豪が、自分が拘束される予定を入れないから。ビジネス・オーナーたちは、儲かる仕組みを思いつくと会社をつくって従業員を雇い、事業をスタートさせる。そこまでが仕事で、あとは従業員に任せ、自分は次のビジネスを模索しはじめるというわけです。

ちなみに著者の目から見ると、オーナーが暇そうに見える会社ほど、儲かっているのだとか。それは、オーナー不在でも、ビジネスがまわる仕組みをしっかり構築している証拠だといいます。(38ページより)

偏りがまったくない

決して人物の好き嫌いが激しいわけではなく、実直で礼儀正しい人とも、ずる賢いくせ者とも、同じようにつきあえる柔軟性が大富豪にはあるそうです。仕事の進め方もステレオタイプではなく、その場その場で臨機応変。そして、よくも悪くもこだわりがなく、どんな人の意見にも耳を傾け、取り入れてしまう「傾聴力」は大富豪に共通した持ち味。

だからこそ、癇に障って拒絶するような態度をとることはなく、柳に風といった具合に、どんな状況でも飄々として見えるそうです。特にその傾向が強いのは、一代で財を成したビジネス・オーナー。彼らは仕事の成果を常に見ているため、プロセスにはこだわらないということ。「こういうやり方でないとおかしい」という凝り固まった考え方を好まないのは、ベンチャービジネスの世界に生きているからだろうと著者は分析しています。(40ページより)

失敗の概念はなし

いくら儲けの仕組みづくりが得意だといっても、仕掛けるビジネスすべてが成功するわけではないのは当然。実際には失敗の方がはるかに多く、感覚的にいうと、100の事業を興したら90は失敗するといいます。その程度の割合ですから、大富豪本人も、初めから成功するとは考えていないもの。失敗して当然だと思っていて、上手に失敗するのだそうです。(42ページより)

「失敗しても深手は負わないこと。事業でも投資でも、損失はできるだけ小さくする。そして大切なことは、失敗の原因を見極め、成功しない方法をしっかりとつかむこと」

これは、著者がある大富豪から聞いた「失敗のコツ」。成功しない方法が見つかれば、それは失敗ではなくなるというわけです。(42ページより)

「高級料理よりも卵かけご飯」「カレンダーの色を改ざん」「パソコン10台を使いこなす」など、他にも興味深い話が盛りだくさん。執事ならではの口調もソフトなので、楽に読み進めることができます。そして随所に、私たちも応用できそうなアイデアが。空いた時間に読んでみるだけでも、意外な収穫がありそうです。

(印南敦史)