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デジタルショールームを開設。ステディスタディ代表、𠮷田瑞代が語る「これからのファッションと働き方」。

アタッシェ・ドゥ・プレスの先駆者的存在であるステディスタディが、新たな方向へと舵を切った。7月3日にデジタルショールームを開設したのだ。ブランドのサンプル画像や動画配信を一括してオンライン管理することで、メディアとブランド双方に更なる利便性を生む。代表取締役である𠮷田瑞代に、今回の新システムの魅力やそれによって生み出される新たな働き方などを聞いた。

多くのファッションやライフスタイルブランドをクライアントにもつPR会社のステディスタディが、デジタルショールーム「ENCHANCE(エンチャンス)」を開設した。日本における従来のプレス業務は、サンプルのリース対応など対面で行うのが一般的なため、プレスとメディアの時間調整や、サンプルを展示する広大なショールームスペースの確保など、さまざまな面で制限があった。しかし、すべてをオンラインで完結することが可能なENCHANCEの登場で、ファッションビジネスは大きく飛躍しそうだ。

今後はリースからサンプル管理、レポーティングはもちろん、サンプルの受け渡しもロジスティックサービスを使うことで倉庫からサンプル依頼者の元へ直接届くことになる。さらにルック画像やランウェイショー、キャンペーン動画の配信など、コンテンツも充実。24時間アクセスができるため、サンプル閲覧やリースの問い合わせもいつどこにいても可能という、ユーザーにも対応する側にも画期的なシステムとなっている。

創業20周年を迎えた今年の3月にはサニーサイドアップグループに参画。今後はサニーサイドアップ社長の次原悦子とタッグを組み、ビジネスの可能性と幅を広げていきたいと語るステディスタディの代表、𠮷田瑞代。その第一弾となるデジタルショールームが、ついに始動する。

最大の利点は、業務の効率化。

ステディスタディ代表取締役の𠮷田瑞代氏。

――デジタルショールームのアイデアはいつ、どのようにして生まれたのですか?

日本のファッション界は、デジタル化という意味ではかなり遅れているところがあるんです。だからこそ、早くに変わらないと取り残されていってしまうという危機感は何年も前からあり、デジタル化はずっと考えてはいました。ただ構想はあっても、システムや物理的問題などクリアにしなければならないことが多く、デイリー業務に追われる中、どうしても後回しになってしまっていた。さらに、貸出業務に関しては、ショールームに来てくださる方々と直接会う接客スタイルが日本の特徴であり、良さでもあるので、なかなか思い切れない。とはいえ、業務の効率化を考えると改善の必要は明らかだったので、変えるチャンスを探ってはいたんです。

そんなときに新型コロナウイルスの蔓延により、ステイホームを余儀なくされてしまった。仕事は滞りますし、接客型のシステムは厳しく、その後どうなるかも分からない。となると既存のシステムを見直すしかない。そこで今こそそのときだろうと一歩を踏み出しました。

――「ENCHANCE」の導入により生まれる、最大の利点をいくつか教えてください。

まず、利用者の業務の効率化が一番大きいと思います。これまでは例えばPRやメディア側は接客できる人数の関係から時間調整が必要だったりしましたが、システム導入により24時間いつでも自分の都合のつく時間にサンプル閲覧やリクエストを入れることができるようになります。

次にキャパシティ問題の改善。今私たちがお預かりできるサンプルはショールームのスペース的に限界があるのですが、それが大きく改善されます。さらにビジネス的な広がりで言うならば、前述した理由からこれまでは受けたくても受けられなかった新ブランドなども、気軽に導入できるチャンスでもあるんです。

――サニーサイドアップグループに参画したことも「ENCHANCE」の開設に影響していますか?

もちろんです。サニーサイドアップグループの代表を務める次原悦子とは、友人として他愛のない話をしたり、ときには女性経営者同士としていろいろと相談をしたりする旧知の間柄なんです。ステディスタディは私たちのやり方というのを作り上げて20年間やってきましたが、特にこの5年の間にデジタル領域の拡大を始め、PRの手法が多様化する中で、会社として次のフェーズへの進化を遂げるには新風が必要だと感じていました。

そんな中、今年はちょうど創業20周年という節目にあたり、たまたまサニーサイドアップも1月にさらなる成長に向けてホールディング化をしたタイミングでしたので、あっという間に話がまとまりました。そこからデジタルショールームの実現も一気に具体化され、4月の頭から実現に向けて猛スピードで走り出した感じです。

アフターコロナがもたらす新たな働き方。

コロナ禍により多くの企業や人々が多大なるダメージを受ける中、ピンチをチャンスに変換して日本ファッション界のシステム改革に踏み切った𠮷田。世界がビフォーコロナからアフターコロナへ移行することで働き方はどう変化していくのか。同時に求める人材にも変化が生じるのだろうか?

――デジタルショールームも開設され、リモートワークを経て、今後仕事はよりスマート化すると思います。その分、ご自身や社員の働き方は具体的にどのように変わっていくと思いますか? 会社として求められる働き方の変化も教えてください。

会社としては今まで自分たちが大切にしてきたホスピタリティは活かしつつ、デジタル化できるところは積極的にデジタル化をしていきたいと思っています。今回デジタルショールームシステム導入にあたり、担当チームが掲げたテーマが「瑞代さんにも使えるシステム」だったんです。つまり私が使えれば、誰でも使えると(笑)。

ただ、本当に私たち世代が利用できるようになれば、我々の時間だけでなく、若い人たちの時間も節約できる。そうすることで、これまで以上にさまざまな面での効率化が進むと思うんです。業務が効率化することで生まれる時間を、新規のアイデアを考えるリサーチなどにも費やせるようになる。出社して帰宅するという行為は、家庭と仕事を分けるいい線引きではありますよね。リモートワークの場合にはついオーバーワークになってしまったり、逆にだらだらしてしまうこともあると思うので、そのバランスをどう保つかというのも大事な課題にはなると思うのですが。

――アイデアといえば、サニーサイドアップでは毎月社員メンバーの意見を聞く雑談会を開催していると聞きました。ステディスタディでもそのような他者の話を聞く意見交換会は行っているのですか?

まずサニーサイドアップの話で言うならば、1カ月に1回、「最近自分のアンテナに引っかかってきたものや事柄」というお題のもと、社長の次原を中心にさまざまな世代の社員メンバーが朝食を食べながらそれをシェアする「ポーチドエッグ」という雑談会を行っているそうなんです。自分が今一番興味のあることについて話すので、たとえばアイドルの話でも、面白いアプリの話でも、近所の食堂の話でも、他国の文化についてでもなんでもいい。次原曰く、「情報は一つの点であり、その点があるとき一つの線になってアイデアにつながり、そこから突拍子もないビジネスが生まれたりする」と。雑談が大きな宝になる可能性を秘めているというわけです。

こういう話を聞いている中でリモートワークに突入したので、私たちもZoomなどを使って普段は組まない人たちでチームを形成し、新しいプロジェクト案を出し合うなど、オンラインだからこそできる意見交換会のようなものを積極的に行っています。企画の立て方や話の流れ、プレゼンテーションの取り組みなど、すべてに個性が出るのでお互いをよりよく知るチャンスにもなりましたし、刺激にもなっていますね。

「まず好奇心。そして考えを整理し、実行に移すスピード性が重要」

――トップに立つ人間から見て、どういう人材を「面白い」「採用したい」と思いますか?

もともとPR会社ですので、PRをすることが楽しいと思うのが必須条件です。ファッションだけでなく、たとえば家具だったり、家電だったりするかもしれない。どんな商材であれ、その商品の魅力を伝えたいと思える熱意がある人が第一です。それに加えて私が採用の際にポイントを置いているのは、柔軟性と好奇心です。新しいものを探し、それを世に知らせたいという気持ちでやってきたので、会社の方針を理解し、私たちと同じ思いをシェアできるタイプの人が向いていると思うからです。

――コロナ禍以降、求める人材に変化を感じていますか?

隔離された世界に身を置いたことで、改めて好奇心はより一層必要だと感じました。それに加えて、効率的にスピード感を持って働けることが大事ですね。熟考することも大事ですが、考えているだけではダメ。考えた後にそれを整理してまとめ、形にして発信するスピード感というのがより一層求められる時代になってきていると思います。

――ファッション界も人が集まるコレクションやイベントなどの開催が困難になっていますが、これを機にファッションの見せ方は変わっていくと思いますか?

一部ではもう進んでいますが、やはりオンラインが主流になることは間違いないですよね。それからVRを使ったコレクション発表なども登場するのではないでしょうか。実際に私もアメリカのオキュラス社のVR体験をしたのですが、クオリティが想像のはるか上をいっていました。こういったテクノロジーを使ってのファッション体験が増えるように思っています。

「危機は危険と機会どちらもある」と言いますけど、私たちもここで新たな機会をどう生かすか。私たちに限らず、多くの会社が大変厳しい現実を突きつけられていると思うのですが、会社として変われるいいチャンスだとポジティブに考えるようにしています。

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Photos: Koutarou Washizaki   Text: Rieko Shibazaki    Editor: Maki Hashida